2025.11.28
「高等教育費における親負担・家族負担主義を考える」
武蔵大学教授 大内裕和さん
「すべての人が学べる社会へ 高等教育費負担軽減プロジェクト」は、11月25日に「高等教育費負担軽減Webセミナー」を開催しました。第2回となる今回は、武蔵大学教授・大内裕和さんを講師に迎え、「高等教育費における親負担・家族主義を考える」をテーマにご講演いただきました。
大内さんは冒頭、高等教育費に対する「世代間の認識格差」が極めて大きいと指摘されました。1970年前後には国立大学の授業料は年間1万2千円にすぎず、家庭の負担は極めて小規模であったことを紹介するとともに、その後、国立・私立を問わず学費が大幅に上昇し、1990年代には私立大学で学費と仕送り額の合計が年間約250万円になったことが説明されました。
高度経済成長期には、親が学費と生活費を負担し、学生はアルバイトで小遣いを得るという生活モデルが成立していたものの、1995年以降の雇用構造の変化により非正規雇用が増え、世帯収入が低下した結果、仕送り額も減少した経緯が述べられました。その結果、奨学金利用者は急増し、学生にとってのアルバイトが学生生活を維持するために欠かせない収入源となっている現状についても解説されました。さらに、高卒求人がピーク時から大幅に減少する一方で、2024年度には大学・短大・専門学校・高専を含む高等教育への進学率は87%を超えており、「高等教育は一部の人のもの」という前提はすでに成立しないと指摘されました。
2010年代には、奨学金制度の改善や給付型奨学金の導入などの前進もありましたが、その対象は低所得層に限られ、中間層の負担は依然として重いままであることが示されました。また、奨学金返済が結婚・出産・子育ての妨げとなっており、高等教育費負担の軽減は少子化対策の必要条件であるとの見解が述べられました。
こうした状況を踏まえ、大内さんは「親負担・家族負担を前提とした高等教育システムは限界にきている」と強調されました。最後に、これからは、親や家族だけに頼る仕組みではなく、社会全体で高等教育を支える体制への転換が必要であると述べ、講演を終えました。